楽器車の悲劇その3
「ヤッホー!」

(文責・ボーン助谷)

=終章=

キー坊と茜がハイテンションで喋り続けた。

「いや〜大変だったんだよ!代わりの車探すのが!楽器の載せ変えに時間がかかっちゃってさ〜。アハハハハ!」

「色んな事が起こっちゃって何から話したらいいのか判んないよ!ギャハハハ!」

ついにダディが怒りだした。

「おまえらどれだけ心配させたか判ってんのか!事故に遭ったんじゃないかと思って那須まで戻ったりしんだぞ!大笑いしてる場合か!チャンと説明しろ!」

妙なテンションのキー坊達も、さすがに神妙になり、

「悪かった。でも、こっちも大変だったんだよ。後で詳しく話すけど楽器車が爆発したんだよ。」

「何!爆発?楽器車はどうした?」

「だから爆発して使いモノにならなくなっちゃって、レッカーで宇都宮まで牽引してもらって、レンタカー屋を探して、借りて、楽器を積み替えて・・・・・」

「判った!こっちも待ってて寒くてカラダが冷えちゃったんで、仙台市内に着くまで分乗して話を聞く。まずは街道沿いのラーメン屋を探そう。そこで詳しく聞く。」

雪が降り始めた山道を2台は進んだ。
運転していたキー坊の話によると、

「宇都宮の手前でさぁ、追い抜きっこしてたじゃない。その時急にアクセルが効かなくなってさぁ、ホンで急にエンジンの回転が死ぬ程上がったんだよ。ギュワ〜ンって。そしたらドッカーン!という音と同時に運転席と助手席のスキマから炎が車の天井まで一瞬に上がって、ものスゴイ熱さを感じたトタンにエンジン音が“カラカラ”って音に変わってハンドルが物凄く軽くなったんだよ。アハハハ。
ブレーキ踏むとヤバイ!と思ったんで惰性で路肩の方に慎重にハンドルを向けていったワケ!
助手席のモリオは寝てたんだけど飛び起きて、
『キー坊さん!キー坊さん!何があったんですか!キー坊さん!』
って言うけど、こっちはそれどころじゃ無いんで無言でハンドルをキープしてると、また寝てしまうしさぁ。
茜は茜でヘッドフォンしてナンカ聴いてたんだけど炎と音にビックリして、
『キーちゃん!何がどーしたんだよ!キーちゃん!』
と言うんだけど、説明出来る状態じゃないから黙っていると、またヘッドフォンを付けて音楽聴いていたんだよ。
めぐみも寝ていて驚いたようだったけど、また寝てしまったんだよ。皆ノンキなワケ。アハハハ。
そしたら後ろにいたダンプが物凄い蛇行しているのがバックミラーで見えたワケよ。そしたらパッシングはするは、クラクションは鳴らすは、大騒ぎしてドナリチラシながら追い越していくワケ!こっちはペコペコしながらも安全な路肩の方へ車を寄せて行くしかないじゃない?ホントにダンプの兄ちゃん怖かったよ。マジで!
そんで、車を停めて恐る恐る車の下を覗くと、ナント!エンジンが無いワケよ!アハハハ。信じられる?アハハハ。
皆降りて来て、
『どうしたの?エンスト?』
とか言うから、
『クックックッ。下覗いてみ。エンジン無いから。クックックッ。』
って言ったらさぁ、
『ウッソー!アッ!エンジンが無い!どーしたんだよ!』
って言われてもオレにも判る訳ないじゃない?アハハハ。
まずこの光景は実況するしかナイ!と思ってラジカセで録音し始めたのさ!アハハハ。後で聞かすよ。これが大笑い!アハハハ。
とりあえずJAFを呼ぼうと思って非常電話を探していたらさぁ、反対車線を消防車が何台も行くじゃない!その音も入っているからね。アハハハ。何があったんだ!って思うじゃない?しかも高速で!アハハハ。
そのうちJAFが来てくれて、
『どうなさいました?エンストですか?』
って言うから、
『エンストならいいんですけどね。とりあえず見て下さい。』
って言うと、
『あれ?エンジン無いよ!どうしたんですか?』
って言うから、
『どうしたんでしょうねぇ。無いんですよ。』
って言うしかないじゃない?アハハハ。
とりあえず近くの宇都宮インター出口のJAFまで牽引してもらってさぁ、
『どうしますか?』
って言うから、
『どうしますか?って言われてもエンジン無いので、レンタカー屋教えて下さい。』
って言ってさぁ。とぼけたJAFの人もいたもんだよね。アハハハ。
そんなこんなしてたら、高速パトロール隊の車が戻って来て、
『こんなモノ高速道路に落ちてたよ。まだ熱いしさぁ。なんでこんなモノ?落としたのかなぁ?』
ってオレ達の楽器車のエンジン持って来たワケよ!アハハハ。
一応知らんぷりして、
『どうしたんですか?』
って聞いたら、
『高速道路上で火災の通報があって行ってみると、中央分離帯の立ち木が5本とグリーンベルトが200mに渡って燃えて大渋滞になっていたんですよ。その近くにこれが落ちていたんです。』
だって。アハハハ。
『通報によると、前の車から大きな炎が飛んで来て、通報者はうまくカワしたらしいのだが、どうやらその炎が原因らしい。前の車はそのまま走り去ったようだが。詳しい事は判りません。』
だって。アハハハ。
『この車です!』
って言えないじゃない?アハハハ。
それでレンタカー借りて楽器積み替えてたりしてたら、こんな時間になっちゃったワケよ。アハハハ。楽器車?ダメだろう。エンジンないしさ。アハハハ。一応帰りに寄りますと言っておいたけどさぁ。アハハハ。」

呆れ果てた。
しかし、何が原因だか判らないが、高速道路を100km近くで走っていてエンジン爆発!ガソリンまみれの巨大な火の玉となったエンジンが、自分の車体にも当たらず、まして奇跡的に他の車にもブツからず、大事故にもならずに高速道路をコロがって行ったとは信じられない。
玉川通りでガスボンベをコロがすのとは、ワケが違う。
ダンプの運ちゃんは、さぞ驚いたことだろう。しかし2台がツルんでいる事を察して必死に後続の車の惨劇を伝えようとしたり、無線で色々連絡もしてくれたのだろう。出来た人物だ。

ホテルに着いたのは当然夜中。興奮したキー坊達の話は盛り上がり、なかなか寝る事は出来なかった。

たしか後日、レンタカーを返しがてら可哀想な楽器車を廃車にしようとしたら、格安のエンジンがあると言われ、載せ変えてしばらく使ったような気がする。
スゴイ話でしょ。

        =完=