三郎事件簿その6
「オレ覚えてねぇよ」

(文責・ボーン助谷)

事務所を起こして間もなくスタッフ、関係者50人程で忘年会を開いた。顔に似合わず神経が細かく、特にお金の管理にマジメな三郎が幹事になりお店との交渉、会費集めをキチンとこなしていた。

「さすが三郎だなぁ。頼りにしてるよ」

「好きでやってんじゃねぇよ。面倒くせぇなぁ」

「だって三郎しかいないじゃん」

「判ったからあっち行ってろ!ちゃんとやっとくからよぉ。おめぇらあっちで酒飲んでチャンと接待してろ!」

てな感じで和気アイアイ。大無礼講大会で大いに盛り上がって行った。三郎は入り口付近で一人寂しく酒を飲んでいたらしい。
宴もタケナワ。シャレ好きのお偉いさんが大ボケをかまし、ここぞとばかりに目下の者達がツッコンで頭をハタイたり、ケリを入れるという宴会ならではの小芝居があった時、三郎が結構マジでケリを入れていた。

「三郎!少しヤリ過ぎだろ!手加減しろよ!」

「ウルセェなぁ〜。シャレだよ!シャレ!」

この時にはまだ三郎の異変には気付かなかった。
少し時間が経って、場も更に盛り上がり大騒ぎしていると、急に女性スタッフが俺に耳打ちをした。

「大変です!三郎さんの目付きが変です!」

見ると三郎はブツブツ独り言をのたまいながら、入り口の所で完全に目が座った“さぶろった”状態になっているではないか。怪獣の完成である。

「バカヤロー!どのくらい飲ませたんだよぉ!」

「酒もってこい!って言われて何杯か覚えていないんですけど相当飲んでます!もうやめたらって言ったら、ウルセー!酒持って来い!って言われて……..もう私コワイ!」

今にも泣きそうな声で俺に泣きつき、三郎の酒に慣れているハズのスタッフが悲鳴を上げていた。ビールを飲むスピードで焼酎を飲んでいる。ダディに相談すると

「いいからほっとけ!もうすぐ終わりだし心配する事無い。でも三郎を1人にさせておいたのはマズかったなぁ」

「そうだな。まぁいつもの事だからいいか」
でも少し気になり三郎に声を掛けると

「ウルセー!バカ野郎!クソ面白くもねぇ!このバカ!タコ!」
完璧である。

「もうすぐ終わりだからな、いい加減にしとけよ」

「ウルセー!ウマ!このタコ!バカ野郎!」

はい、判りました。スイマセン。ちなみにウマとは三郎独自の俺に対する愛の表現である。そろそろお開きの時間の近づいた頃、例の女性スタッフの叫び声が響いた。

「ギャー!三郎さんが倒れた!」

場は一瞬にして静まり返り、見ると三郎が意識を無くし、口を真一文字に結び大の字になり、小さな呼吸しかしていなかった。長年酔っぱらった三郎を見て来たが、こんな状態になった事は一度もない。異変に気付いたダディが三郎の頬を叩きながら「三郎!三郎!」と声を掛けるが反応が無い。全員酔いも醒め、三郎を取り囲んで声を掛けるのが精一杯。息が浅いのに気付いた俺はマウス トゥ マウスをしようとしたが、どうやっても口を開かない。顔に水をかけたり口移しで水を飲ませようとしたがダメ。気を失ったままだった。「ピーポー、ピーポー」店の人が呼んだのか救急車が到着し、救命隊員が3名宴会場に入り、一気に緊張感が増した。

「どうなさいました?」

「意識が無いんです」

「お酒は相当飲まれましたか?」

「かなり飲みましたが、こんな状態は初めてです」

「頭は打ちましたか?」

「見てはいませんが、畳の上だったので大丈夫だと思います」
こんなヤリトリがあり、救命隊員が声を掛けた。

「三郎さん!三郎さん!」

やはり反応が無い。ライトで瞳孔を見たり、人工呼吸もしようとしたがダメ。

ならばと隊員が右手で拳を作り、三郎のミゾオチを強く押した。その瞬間!三郎は目を「カッ!」と見開き、反射的に隊員のクビをつかみ、殴りかかろうとした。物凄い力の三郎を、傍にいたダディ、キー坊、俺などで必死に押さえつけた。

「スイマセン!大丈夫ですか!三郎何すんだ!このバカ野郎!助けてもらったんだぞ!」

「いやいや、これくらい元気があれば大丈夫ですよ。三郎さん。お酒は程々にして下さいね」
言われた瞬間!三郎は又、殴り掛かろうとした。

「バカ野郎!お前のせいで宴会台無しじゃないか!」

言ってみた所でラチも開かず、忘年会参加者の
「心配したけど良かったじゃないか。最後まで楽しませてもらったよ。アハハ」
の言葉に少しは救われ

「ご心配をおかけ致しました。申し訳ありませんでした。今日はこれで散会いたします。来年も宜しくお願いいたします」
のダディの挨拶で幕となった。

意識は戻ったが、ベロベロの三郎を外に連れ出し、少し文句を言ってダディ達と飲み直しに行こうとすると三郎もついて来る。言ったところでショウガないが、思わず

「このバカブタ!オメェのせいで宴会台無しだ!まだ飲む気か!バカヤロー!」
と言ったら敵もさるモノ、俺の髪の毛を掴んで振り回そうとした。慌ててダディが

「三郎!もう帰れ!何回迷惑かけたと思ってんだ!もうお前とは金輪際酒を飲まん!」
この一言が効いたのか、三郎は

「ウマ〜。バカヤロ〜」

と愛情のある言葉を残して渋谷の街に消えて行った。

「あんなに酔っぱらってて大丈夫か?」

「心配する必要ない!知るもんか!ほっとけ!」

たいそう御立腹のようす。
翌日三郎に会うと

「オェ〜。ちょっと飲み過ぎたみたいだなぁ。あ〜気持ちワリィ。全く覚えてねぇよぉ」

「1人で歩いて帰ったみたいだけど平気だった?」

「えっ!1人で歩いて帰ったの?あれから飲み直したんじゃなかったっけ?何も覚えてないんだよなぁ」
あれやこれや話したのだが全く覚えていない。

「俺そんなに酒癖悪くねぇよぉ」

「ふざけんな!あんなヒデーの見たこたねえ!」

真相を事細かに説明する為に俺、ダディ、三郎の3人は懲りずに焼き鳥屋へと消えて行くのであった。
今でもこの現場に居合わせた連中と酒を飲むと、大笑いして盛り上がるのだが、本人の三郎は記憶に無いので、つまらなそうに

「俺が覚えてないと思って、いつもみたいに面白がって大袈裟に言ってんだろ?」

とのたまう。ここでは書けないような事が死ぬ程あるんだけどね。三郎くん。
しかしながら俺も最近、急性アルコール中毒になり救急車で運ばれたもんで、人の事をトヤカク言えないが、でも絶対に三郎ほどタチ悪い酒じゃないからね。
しかし「そう言っているのがウソ臭い」と誰かに言われそう。