三郎事件簿その5
「もうだめだー!」

(文責・ボーン助谷)

おとぼけは何回大阪に行った事があるのだろうか。梅田にあった【バーボンハウス】には俺が入る前から出ており、しばらくしてから2日間やることが恒例となっていった。後に「バラード」や大阪市内のライブハウスにも出るようになった。その頃は名古屋から始まり神戸「チキンジョージ」、京都「サーカスサーカス」等を廻るツアーで、常宿となる「ホテル関西」(とにかく安い!4人部屋で1万以内!しかもベッド!駐車場付き!通称ホテカン。知り合いにも紹介しバンドマンの常宿となる)も見つけ、2,3ヶ月に1度は関西に行っていた。

バーボン1日目が終わると後片付けも無いので心行くまで大騒ぎし、2日目は俗に言う「ハネダチ」。皆の労をねぎらい、宴を軽くやって帰りの運転のローテーション(酒が飲めないキー坊が1番手。眠くなったら交代するので最後に運転するヤツが1番酒を飲めるという、おとぼけならではの不文律)を決め、その日は三郎が最後の運転手に任命され、豪快にビールを飲んでいた。

その頃の楽器車は、20人乗りの小型バスを普通免許で運転出来る11人乗り+荷物室に大改造したシロモノで、1台で活動していた。通称「赤バス」と呼ばれたこの楽器車は、新車納品の段階からの特別仕様で、車全体が郵便局の車のように真っ赤に塗装され、サービスで入れてくれたのだがご丁寧にも両側面に「ダディ竹千代&東京おとぼけCats」の文字が白ヌキで書かれていた。その後仲の良かったナルチョや山岸潤史等のバンドに貸していたので、我々が行かなくても赤バスは全国でプロモーションをしていたのだ。よく働いてくれた。

いつものように吹田から名神に乗り、1回小便休憩をした後、3番手の俺は軽く酔いも廻り眠りについた。わりとスグに夢見心地になり(という事は、真冬ではない季節だったであろうと言う推測が成り立つ)深い眠りに入ろうとした時、その事件はすでに始まっていたのだ。

何やら騒がしいので目が覚め(とは言っても寝起きの悪い俺の事なので、ほぼ夢の中状態)横を見ると、三郎と運転している誰かが言い合っている。どうやら三郎が急にトイレに行きたくなったようだ。

「漏れそうだ!止めてくれ!」

「さっきしたばかりじゃないかよぉ!近すぎるよぉ!」

「そうゆう問題じゃない!マジ止めてくれ!タノム!」

「次のパーキングまでガマンしろよ!」

「待てない!スグ止めてくれ!」

「ここじゃぁ路肩も狭いし危ないからもう少しガマンしろよ!」

「待てねぇ!どこでもいいから止めてくれ!破裂しそうだ!」

「もう少しでパーキングだからガマンしろ!」

「ダメだ〜!漏れる〜!ドア開けて小便するから止めてくれ〜!」

「アブナいよ!無理言うな!こんな所に止められるか!落ちたら死ぬぞ!」

「もーダメだー!」

という声が聞こえて来たと思ったら、ドア(路線バスの乗り口と同じ蛇腹のドア)の開く音がして、急に風が車中に吹き込んで来た。誰だか忘れたが運転手の

「バカヤロー!アブナいからヤメろー!死ぬぞー!」

というような声も聞こえて来たが、誰の声かはハッキリ覚えていない。何が起こったのかも判らない。ただ、隣の席で寝ていたハズの茜の

「うゎ−!何してんだよー!うゎー!あぶない!やめろー!うゎーキッタネー!」

のような言葉だけが記憶にあった。
運転交代となり、目覚めの一服をしながら茜に聞いてみた。

「何があったの?」

「まったくよ〜!サブちゃんビール飲むと小便近いのは知ってるけどさぁ〜。『ヤメロ!』って言うのに走ってる車のドア開けて小便しだすんだよ!『アブナい!』って言っても『漏れる!』って言って聞かないんだ。小便すんのもアブナいけど、結局ドア開けると風が吹き込むからさぁ、自分の小便全部自分にかかっちゃったんだよなぁ。勿論こっちまで飛沫は飛んで来るしさぁ。冗談じゃねぇよ!車に乗るんだったら、しこたまビール飲むんじゃねぇつーの!」

かなり御立腹!ふと三郎を見ると聞いた通りのズブ濡れ姿で気持ち良さそうに爆睡中!
とりあえず「赤バス」の中は雑巾でキレイにしました。三郎は言っても記憶が無いであろうと言う事でそのまんまにしておいた。
この話は私が夢うつつ、後で茜から聞いた話なので私自身も『まさか?』と思ったが、皆同じ事を言うので事実なのであろう。

教訓:高速道路走行中の車から放尿すると自分に帰ってきます。衛生上好く無いです。