楽器車「おとぼけ号」の悲劇!
その1「パンクじゃないよ!」

(文責・ボーン助谷)

昔からバンドは楽器車で移動が当たり前で、それにまつわるエピソードが数々あり、バンド仲間が集まると「パンクして大変だった」「ガス欠で高速道路を何キロも押した」「夜ライトが切れて大変だった」とかの話で盛り上がるのだが、我々にしてみれば「そんなの当たり前じゃん!俺らこんな目に遭ったよ」というと皆大喜びしてくれたもので、その一部をご紹介していきたいと思います。第1話「パンクじゃないよ!」

電気クラゲでデビューし、しばらくして器材が多くなったので、透のドラム車と楽器車2台で移動する事が当たり前になっていた。透の自前の車はチャンと整備してあるし、キレイに乗っているのだが、楽器車は中古の安いのを乗り潰すしかなく結構ギリギリのところで使っていた。いつもの様に2台に分乗しての北陸ツアーの帰り道、まだ中央道が韮崎までしか開通しておらず、一般道を南下していた。当時のルートはタムタムで軽い打ち上げをして午前1時頃高岡を出発。4号線を糸魚川まで進み、明け方川沿いに山登り。恐怖のアボウ峠(谷底に何台も車がゴロゴロの1車線の山道)を越え、長野・松本を通過し、開通している中央道の入り口まで進むのがいつものパターンだった。途中気が向くと温泉に入ったり、黒部ダムなどに観光に行って修学旅行気分で移動を楽しんでいた。

その日も順調に帰路につき、交代で徹夜の運転は当たり前なのだが長野を過ぎるあたりから、どういう訳か楽器車に乗っていた俺と三郎の腹具合が絶好調になっていった。異常に屁が出るのである。交互に1分刻みで音とニオイを撒き散らしながら車は進んで行った。同乗者ダディ、岡野の2人は最初笑っていたが、その内不機嫌になり

「お前ら異常だ!何食ったんだ!少しは遠慮しろ!」と怒りだした。

「しょうがねぇよなぁ。出物腫れ物ところ嫌わずって言うじゃん」

「モノには限度ってものがあんだよ!限度ってものが!」

「温泉のニオイだと思えばいいじゃんかよぉ」

「バカ言ってんじゃない!あっ?俺まで屁が出る様になったじゃないか!」

こんな状態が3、4時間も続いた午後3時頃、高速入り口まであと1kmに迫った橋の上で走行中の楽器車はカクン!と左に傾いた。運転手の三郎が機転を利かしゆっくり橋の欄干ギリギリに車を止めた。

「パンクか?」

「しょうがねぇなぁ。スペアタイヤあるよなぁ。ジャッキ用意しといてくれ」慣れたものである。「高速に乗る前でよかったわ」等と言いつつ車を降りてビックリ!左前輪のタイヤが女座りしているはないか!判り易く言うと、タイヤが垂直では無く45度「ハの字」に傾いていた。「何だこりゃぁ?」後続の透の車からも皆出て来て

「パンクかよぉ?」

「違う!タイヤが女座りしてる!」

「女座り?何だそりゃ?」

壊れているのは判るのだが、初めて見る異様な光景に全員口がポカ〜ン。色々と見てみたのだが訳が分からず、とりあえずJAFを呼び修理工場に持って行ってもらう事にしたのだが、夕方の片側1車線の幹線道路でしかも橋の上。大渋滞になってしまった。メンバーが交代で交通整理をし、ある程度の器材を透の車に積み替え、楽器車担当部長の三郎と岡野を残し、手持ちの楽器を持って運良く近くに合った「韮崎」駅に走った。電車の中で

「高速に乗る前で良かったなぁ。高速だったら全員大ケガどころか死んでたぞ」

「バカヤロー!お前と三郎が屁ばっかコイてるから壊れたんだ!責任取れ!」「何言ってんだ!デブばっか楽器車に乗るからだ!」

「何おぉ!車だって乗るヤツの性格が判るんだ!これから楽器車で屁をコクの禁止だ!」

等と盛り上がりながらも、ケガ1つ無い運の良さを痛感した。後日、三郎が車で残りの器材を引き取りに行ったが、修理工場の人に「車軸が折れるなんて初めて見た。高速に乗る前で良かったね」と言われ、新たに楽器車が買えるくらいの見積を聞かされ、あえなく廃車となった。「パンクじゃないよ!車軸が折れたんだ!」本当に一般道で良かった。しかし、まだまだ楽器車の悲劇は続いて行くのである。